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「日本語が通じない」同僚の頭の中

2014.06.7

「ホンっと、日本語が通じないなぁ~」

振り返ると、社員食堂でランチをとる上司らしき男性が部下に対して諦め顔でつぶやいていました。そこは某大企業の社員食堂、名の知れた会社だけに社員食堂も充実しており、華やかなOLさん達の笑い声も聞こえてきます。

「もう、何回言ったら分かるんだよ~。いい加減、覚えて貰わないと困るんだからね!」

「はい、、すみません。。」

申し訳なさそうにしている部下らしき男性は、顔を俯いたまま静かに返事をしました。

噛み合わない会話

聞こえてくる話によると、どうやら上司が指示した仕事の内容を部下が間違って受け取って、オーダーとまったく違う企画書を作ってしまったようでした。

上司の方は「なんでちゃんと伝えたのに、間違えた受け取り方をするのか」を知りたがっているのに対し、部下の方は「言われた通りにやっただけなのに、どうして怒られないといけないんですか?」という姿勢で、とにかく「がんばったボクを認めて」というメッセージを遠回しに表現しているように感じました。

上司が質問していることと、部下が答えていることが噛み合っておらず、会話が空回りして冒頭の「日本語が通じないなぁ~」というつぶやきにつながったようでした。

 

単語とバラバラな脳内イメージ

言葉の問題は本当に奥が深くて難しい。「単語」と「イメージ」はリンクしているものの、人によってそのリンク先が違います。

物体ならまだしも「結婚」「幸せ」「成功」となると、人によって脳内で展開されるイメージはバラバラです。

例えば「コミットメント」という単語で辞書を引くと「公約」、「言質」といった意味となっており、報道記事では「コミットメント(必達目標)」と表現されたりもします。

ビジネスの現場では「○○にコミットします」と言いながら、努力目標という認識で使われるケースもあり、その目標を達成しなくても特に責任を取らされることは少ないという意味合いになってしまいます。

 

カルロス・ゴーン氏の功績

しかし、これが問題だと指摘したのが、1999年に「日産リバイバルプラン」を打ち出したカルロス・ゴーン氏。

彼からすると英語の「コミットメント」とは、本来「責任を負う約束」のこと。強い覚悟と意志が求められ、達成できなかった場合は相応の責任を取らされるのが当たり前のイメージを持っています。

ところが「和製英語」と呼ばれるように、日本人は意味や解釈を変えて使っているため、これでは責任の所在があいまいで、まさに言葉も通じません。

彼は「コミットメントが達成できない場合は辞職する」と明言し、世間を仰天させました。

成功が危ぶまれた3年計画の日産リバイバルプランは、激しい痛みを伴いながら1年前倒しの2年で達成されたのですが、ゴーン氏が日産再生の第一歩として手掛けたプロジェクトは、実は「辞書」をつくることでした。

1人ひとりが持つバラバラな「単語=イメージ」の定義を統一したのが彼の功績でもあります。

 

言語の限界が世界の限界

しかし、本当の問題は私たちが「言語」の出来た理由を知らずに、ただ暗記して覚えた言葉を使っているところにあります。

ウィトゲンシュタインの「言語の限界が世界の限界である」とはまさにこのことです。

思考の限界も言語の限界であるが、我々は”いつか、誰かが創った言語”を用いて会話し、思考し、仕事をしています。その言語が網羅できない世界は思考に上がらず、世界に存在しないこととされてしまいます。

暗記してきた言語だけを道具にして、本物のイノベーションを起こすことができるのでしょうか?

新しい言語を自ら創ることなく、真の意味で新しい世界を開拓することはできるのでしょうか?

今後もたまに取り上げたいと思うぐらいに、言語の問題というのは、かなり奥が深い問題です。

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