2021.04.15
目次
昔々、あるところにウシ子さんとトラ男さんというウシとトラの夫婦がいました。
ウシ子さんはある日、大好きなトラ男さんのために最高に美味しい料理を出そうと思ってアルプスの高原で取れた牧草を夕飯に差し出しました。
それを見たトラ男さんは『草かあ…。俺、肉しか食べないんだけどなあ。でも愛するウシ子が出してくれたんだから』と思いながらムシャムシャと牧草を頬張りました。
その夜、トラ男さんは空腹を我慢しながら寝室で眠りにつきました。
翌日の夕方、お腹を空かせていたトラ男さんは「よぉ~し、今度は俺が一番美味しい料理をご馳走するぞ!」と神戸牛のサーロインステーキを用意しました。
それを見たウシ子さんは『ねぇ、これって共食いなんじゃない?そもそも私、肉なんて食べられないのに~』と思いながらも愛するトラ男さんが出してくれたんだからと、美味しそうなフリをしてなんとかしてステーキを飲み込みました。
その夜、ウシ子さんは共食いの罪悪感から悪夢にうなされたといいます。
その次の夜、今度はウシ子さんが腕を振るって香草づくしの料理をふるまい、トラ男さんは我慢しつつも喜んで食べてくれました。
その次の晩にはトラ男さんが狩ってきた鹿を、ウシ子さんは相手の気持をムダにしないようにと、美味しそうなふりをして完食しました。
その翌日も、次の日も、愛する二人はお互いに相手のためを思って手料理を振る舞っていたのですが、3か月ほどしたある日の夜、ついに堪忍袋の緒が切れたトラ男さんが叫びました。
「いい加減にしろ!毎晩毎晩、草ばっかり食べさせやがって、お前は俺を飢え死にさせるつもりか?!」
その形相に驚きながらも、ウシ子さんも負けず劣らず反撃にでます。
「だったら言わせてもらうけど、あんたこそなんなの?毎晩毎晩、肉ばっかり食べさせて、私がどれだけつらい気持ちを味わったのか分かっているの?」
毎日蓄積していた怒りと屈辱が堰を切ったように溢れ出し、二人は大ゲンカを繰り広げ、結局、離婚することになりました。
それからしばらく家庭内別居の期間を経て、離婚届を提出し、ついに最後のお別れとなった場面で二人はこう言いました。
「俺は、お前のためを思って精一杯努力したぞ」
「私は、あなたのためを思って精一杯つくしたわ」
それぞれが、心の底から最後に伝えたかったメッセージが「あなたの為に、こんなにしてあげたのに」というセリフだったんです。
みなさんは、この物語から何を感じ取られるでしょうか。
ウシ子さんとトラ男さんの物語は、今の時代に生きる、すべての人に当てはまる話です。
彼らは、お互いに自分のモノサシ(判断基準)で「いちばん、最高に美味しいと思うもの」を相手にプレゼントしていました。
しかし、実際は相手の基準を考慮に入れていなかったので、それぞれ自分の観点から「こんなに、あなたのためにやってあげたのに・・・」という想いが沸き出てくるのです。
つまり二人は、お互いに自分の観点、自分の世界だけで物事を考え、そのなかで自分流に相手を愛するという状態になっていました。
相手を理解する為に「確認」すればよかったのに、それをしないで「自分が好きなものは相手も好きに違いない」と決めつけ、その食事を押し付けることで苦痛を提供し続けていたのです。
よかれと思ってやったことが、相手を苦しませるのは本望ではありません。
しかし、私たちは皆自分の観点に固定されて世界を見ているので、その固定認識から脱しない限りは、ウシトラの物語のような不幸を、また繰り返すのです。
パートナーの為に「よかれ」と思って取った行動で相手を怒らせてしまった。会社のために「よかれ」と思って提案したのに誤解されてしまった。など、相互理解が足りないばかりに起きる不幸の数は数え切れません。
あなたが幸せになる為にも、自分の観点もまた固定されている可能性があることを自覚し、相手の言葉や行動の背景を確認する習慣を、ぜひつけてみてください。
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