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新規事業が失敗した事例

2021.06.5

新規事業が失敗したときの社内の反応

インタビュアー:事業開発について、新規事業が失敗したときに起こること、特に人周りではどういうことがありますか?

石山:まず、世の中に新規事業の立ち上げだとか、こうすれば儲かるという話はたくさん出ていますが、失敗談は割と少ないですよね。ちなみに、ライブドアで新規事業を立ち上げていたときは、10のうち9ぐらいは赤字でした。恵比寿で有名なクリエイティブスクールを経営されてる社長さんも「新規事業は毎年手掛けているけど、黒字になるのは10に1つぐらい」だと仰っていました。

僕の経験上、事業開発では収支がとんとんだとケンカが起こらないのですが、めっちゃ儲かるか失敗すると摩擦・衝突が発生していました。上手くいった事業については、皆「あのプロジェクトは俺がやった」と主張するようになります。

利益がそれなりに出てると、「その利益を出しているのは自分だから、その分給料を上げて欲しい」と交渉するようにも。逆に、失敗して大赤字だと「私の責任じゃない」と言って皆逃げ始めるんですよ。だから、大成功しても大失敗しても争いが絶えませんでした(苦笑)

他社との共同事業が失敗したとき

ある執行役員Aさんが進めようとしていた新規事業の案件があったのですが、私は法務も兼ねていたので、契約書をチェックした際に「この数値は実現困難だから契約条件を変えた方がいい」と、Aさんにアドバイスしたことがありました。

ところが彼は「大丈夫、ちゃんと出来るから」と言って修正せずに契約を締結し、某社と共同プロジェクトをスタートさせました。

その翌月、共同事業は大赤字になってしまって契約条件を満たすことができず、払うものが払えなくなって慌てたAさんが私のところに相談に来たんです。ところが結局、彼は責任を取らずに「あとよろしく」と言ってプロジェクトから逃げちゃった。

「さて、どうしようかな」と思いつつ、責任を取る為にもまずは現状が分からないので、そのプロジェクトを担当している社員に話を聞きに行ったんです。

そしたら「いや、僕はAさんに言われてやっただけなので」と言ってディレクターは責任逃避するわけですよ。現場スタッフに聞いても「いや知りません。それは上司の仕事なので上司に聞いてください」とみんな他人のせいにして、とにかく「俺は関係ない。俺の責任じゃない」の一点張り。

状況を説明して欲しいのに、みんな責任逃れの弁明に必死で、事実を確認するだけの仕事に意外と時間がかかりました。

裁判で訴えれらたことも

共同事業を行っていた他社から損害賠償請求裁判で訴えられたときも、その新規事業を立ち上げた役員Bが逃げるように会社を辞めてしまったので、会社を代表して裁判所で訴えられる役も私が務めていました。

当事者の役員Bは会社を辞めても本件の関係者なので、書面で供述書を貰ったりするのですが、その内容を読むと「僕に責任はありません。相手の会社が全部悪いんです」という内容で、「いやいや、あなたが立ち上げた事業だし、あなたがその会社に声をかけたんじゃない」と呆れることもありました。

役員であってもサラリーマンの本音はリスクヘッジなので、責任を取りたくないんですよ。

だから、責任を取らなきゃいけないという状況に追い込まれると皆逃げるんだと分かった上で、じゃあどうやって新規事業を立ち上げるか?という考え方をしないと、うまく行かないと思う。

サイバーエージェントの新規事業開発ルールでも「2年目に利益●●を達成してなければ中止とする」のような「撤退基準」を明確にしてるから、あとの争いを減らすことに貢献してるんじゃないでしょうか。

担当者が業務委託のケース

インタビュアー:誰に任せればいいのかをどう見極めたらよいのでしょう?社内に人材がいないから社外の専門家に新規事業の立ち上げを委ねるケースも増えているようですが。

石山:そうですね。個人事業主と企業をつなぐマッチングサービスの会社でニーズの多い案件トップ3は「営業、新規事業の立ち上げ、人事制度の設計」だったりするので、最近は社外人材に新規事業の立ち上げを依頼するケースも増えていると思います。

実際、うちがD社と共同事業を企画していたとき、D社の担当者Eさんが、まさに業務委託の人でした。

プロジェクトの途中で本人が話してくれたのですが、実は他の会社の社員をしながら副業として業務委託を数件やっていて、これもその一つだと。優秀な方に見え、最初の3ヶ月ぐらいは打ち合わせも順調に進んでいたんですけど、4ヶ月目あたりからスケジュールがどんどん伸びていくという現象が起きたんですね。

例えば契約書の締結期限を過ぎても返事がない。1-2ヶ月待っても進展がなく、その理由も教えてもらえない。年末にオープンする予定のサイトができていない。翌年に入っても納期が明確にならず、年末にサービスをリリースする予定だったのに、いつリリースできるのか?さえ先行き不透明になってしまう。弊社に原因があるのか?と尋ねても「うちの社内の問題なので」と返され、できることもない。

そうこうしているうちに当該事業の代理店をしてくれるN社と3社ミーティングを終え、しばらくした頃にN社の営業部長から私宛に電話が掛かってきました「すみませんが、Eさんが担当でいる限り、うちは営業できません」と。理由を聞いてみると、Eさんのサービスに対する理解不足や仕事の不手際、契約締結が進まない状況などを説明してくれました。

この共同事業では、D社の社長はEさんに事業責任者として売上を立てるところまでを期待されていたのですが、Eさんとしては「僕、営業したくないし」「企画は進めるけど責任とか取りたくないし」という本音があり、それを伝えずに”仕事をしてるフリ”をしていた、ということが判明したんです。

任せる人を選ぶ基準

インタビュアー:それはヒドイですね。任せる人を選ぶ際に、どこを見たらいいのでしょうか?

石山:新規事業を成功させる為には逃げない人を選ぶのが大事です。本気で自分の責任でやるという気概を持った人間を選ばないといけない。失敗させないためにはビジネスモデルや事業企画、マーケティングも大事ですが、任せる人の覚悟を問うことが実は1番大事な要素だと思います。覚悟がないと事業は進まないので。

先の案件も担当者が交代になったのですが、新しい担当の方が「私が責任を取ります。私なら、ここはこうしたいです」という風にちゃんと意思を持った方だったので、その後はスムーズにプロジェクトも進んでいきました。

意思を持っていれば、上司なり関係者に「この場合はどうするんですか?これはどちらが責任を取るんですか?これは御社の仕事ですか、うちの仕事ですか?」とたくさん質問してくれて、かなり細かいところまで明確に決まっていくんですよ。

つまり、経営者はその担当者がどれだけ深い質問をしているかで本気度をジャッジできるということですね。

社内の協力を得る

インタビュアー:新規事業を成功させるためには担当者の覚悟や意思が必要とのことですが、他に大事な要素はありますか?

石山:新規事業はその会社にとって新しい分野なので、社員の理解が必要です。例えば、SONYがいきなりお花屋さんを始めたら、「今まで家電を売っていたのに、何で花?」と思うじゃないですか。東京電力が、余った土地でイチゴをつくっていたら「東電がイチゴ?」と思うじゃないですか。新規事業を起こすと社内でもそういう反応が返ってくるんですよ。

新規事業には周りが協力しやすいものと協力しにくいものがあって、しやすいのは既存事業に近いもので、しにくいのは全然違う分野のものです。何をやろうとしているか、どうしてこれをやろうとしているか?が明確に理解できないと、同じ会社であっても協力してもらえません。

社内の理解が得られないと、担当部署は会社の中で孤立無援になって、自力でやろうとします。でも、会社のリソースを使えていないんだから、売り上げなんか上がるわけないですよね。だから、周りのサポートがあるかないかっていうのは結構大きいんですよ。

インタビュアー:事業開発が進んでいない会社というのは、周りのサポートがない、社内のリソースが使えていないということですか?

石山:そうです。周りのサポートがないと、「あの人とうちの部署の数字は関係ないから、別にやる必要ないよね」とか「社長が好きで始めたんでしょ?しばらく様子見ようか」みたいな悲しい感じになります。

新規事業を成功させるためには当事者の覚悟と、次に社内の協力を得ることが必須なのです。特に協力を得る為の社内の人間関係をいかに構築していくのか?については、また別の記事で解説しますので、よかったらそちらもご覧ください。

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